法定速度が変わると、事故の過失割合はどうなる? -生活道路30km/h時代に求められる「止まれる速度」とは-

住宅街を歩けば、どこにでもある光景です。中央線もなく、標識も見当たらない、車がかろうじてすれ違えるほどの細い道。あの何気ない一本が、法律の上では時速何キロまで出してよいことになったのか——。

その答えが、2026年9月1日を境に大きく変わりました。生活道路の速度規制の見直しです。私たちの日常の運転に直結する改正でありながら、その内容はまだ十分に知られているとはいえません。長年、交通事故の鑑定に携わってきた立場から、この変更が持つ意味を、あらためて整理しておきたいと思います。

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阿部友保 (あべともやす)

2002 〜 2017 年、交通事故専門の調査会社で10,000件以上に関わる。調査マニュアルの作成や調査員の育成に加え、事故解析や証拠資料作成など、交通事故訴訟に関わる業務を担当。
2017年より独立開業し、2022年に株式会社東海DCを設立。交通事故鑑定・ドライブレコーダー・防犯カメラの動画・画像解析のプロフェッショナルとして活動中。

生活道路が「30km/h」になりました

改正の要点は、明快です。2026年9月1日から、生活道路の法定速度が、これまでの60km/hから30km/hへと引き下げられました。実に半分です。ここでいう「生活道路」とは、法律上は「中央線等がない道路」、すなわち中央線や車両通行帯のない道を指します。道幅でいえば、おおむね5.5メートル未満が一つの目安とされますが、幅そのものよりも「中央線があるかないか」が、対象かどうかを分ける鍵になります。

「あの狭い道で、これまで60km/hも認められていたのか」——そう驚く方も少なくないでしょう。しかし標識がない限り、法律上の上限は確かに60km/hでした。それが今回、原則30km/hへと改められたのです。ただし、標識や標示で最高速度が指定されている道は、従来どおりその指定速度が優先されます。

見落とされがちなのは、道路そのものは施行の前後で何ひとつ変わらない、という事実です。舗装も、道幅も、見た目もそのまま。変わったのは「法律上の扱い」だけです。だからこそ、これからは運転する側が、道の形を自分の目で見て速度を判断しなければならない。ここに、今回の改正の本質があります。

ここに注意 ― 次のような道路は対象外で、これまでどおり60km/hです

  • 中央線や車両通行帯が引かれている道路
  • 中央分離帯やガードレールなどで、往復の通行が分けられている道路
  • 自動車専用道路、高速道路の本線
  • 標識・標示で最高速度が指定されている道路(その指定速度が優先されます)

なぜ、速度を下げるのか

背景にあるのは、生活道路という空間の特性です。ここは、歩行者や自転車と車とが、きわめて近い距離で行き交う場所にほかなりません。子どもや高齢者がすぐそばを歩き、時に思いがけず車道へ足を踏み出します。その一瞬にも止まれるようにという配慮が、今回の引き下げにはこめられています。

速度と被害の重さのあいだには、はっきりとした相関が知られています。歩行者が車にはねられた場合、車の速度が時速30kmを超えたあたりから、致命傷に至る確率が急激に高まるのです。30kmという数字は、この分岐点から導かれたものといえます。

「30まで出していい」ではなく「止まれる速度まで落とす」

ただ、誤解していけないのは、今回の改正で「30km/hまでなら出してよい」と高を括ることです。

数多くの事故現場を見てきて、繰り返し思い知らされるのは、**「30まで出していい」ではなく、「止まれる速度まで落とす」**という発想の大切さです。道路の形、交通量、天候、視界——そのときどきの状況を読み、いつでも止まれる速度で走る。数字を守ることではなく、止まれることこそが目的なのです。

たとえば見通しの悪い交差点では、30km/hのさらに半分、15km/h程度まで落として進入するのが望ましいといえます。数字だけを見れば、いかにも遅く感じられるかもしれません。しかし、それでようやく「何かが飛び出しても止まれる」速度になるのです。

過失割合も、この一言に返ってくる

「法定速度が30km/hになれば、事故のときの過失割合も変わるのですか」。これも、しばしば寄せられる質問です。

結論からいえば、法定速度が30km/hになったからといって、信号のない交差点の基本的な過失割合が自動的に変わるわけではありません。ただし、事故直前の運転行動が「修正要素」として過失の評価に影響します。30km/hを超えて進入していれば、速度超過として不利に働くことがあります。反対に、たとえ30km/h以下であっても、減速せず漫然と進入していれば、見通しの悪い交差点では相応の責任が残ります。

これまで数多くの事故を検証してきましたが、鑑定でまず着目するのは、衝突したその瞬間ではなく、むしろ「数秒前」の運転です。十分に減速していたか。止まれる速度だったか。その数秒間の挙動こそが、過失割合を大きく左右します。

そして、その「数秒前」を客観的に語ってくれるのが、ドライブレコーダーです。「自分は減速した」「いや、相手が飛び出してきた」——当事者の言い分だけでは、どうしても水掛け論になりがちです。しかし映像は、事故直前の速度も、減速の有無も、交差点への進入のタイミングも、ありのままに記録しています。いざというとき、それは事実を語る何よりの証拠となります。

おわりに

お住まいの周りにも、中央線のない細い道がきっとあるはずです。次にその道を通るとき、「ここも対象かもしれない」と少し意識してみてください。そのわずかな気づきが、明日からの運転を確かに変えていきます。

今回の改正から、ひとつだけ心に留めていただきたいことがあるとすれば、それは——「30まで出していい」ではなく、「止まれる速度まで落とす」。この一言に尽きるかもしれません。


(参考)警察庁「生活道路における自動車の法定速度が引き下げられます!」/政府広報オンライン

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