交通事故の交渉や訴訟で、相手方や相手方保険会社から出てきた「鑑定書」「調査報告書」の中身に、どうしても納得がいかない――そういうご相談は、実のところ少なくありません。
こちらの主張と正反対の結論が、いかにも専門的な体裁で書かれていると、「これを覆すなんて、本当にできるのだろうか」と感じてしまうお気持ちはよく分かります。
もっとも、結論から申し上げると、相手方の鑑定書・調査報告書は、決して動かせない事実ではありません。解析の前提や手法にまで踏み込んでいくと、結論を左右しかねない弱点が見つかることは、珍しくないのです。ドライブレコーダー映像解析を専門にしている立場で、率直に整理してみたいと思います。
こういうときは、反論を検討したほうがよいかもしれません
いちばん多いのは、相手方の資料をもとに出された過失割合に納得がいかないというケースです。過失割合は賠償額に直結します。仮に500万円の損害でも、こちらに2割の過失が付けば、受け取れる額は400万円まで下がってしまう。事故の程度によっては、割合が数割動くだけで数百万円単位の差になることもあります。
そして、これは経験上はっきり申し上げられるのですが、相手方や保険会社が示してきた速度計測の結果が、実際とは違っているというケースは、決して稀ではありません。「提示された過失割合に納得できない」「相手の速度の数字がどうもおかしい」――そう感じたときこそ、映像を解析し直す意味があります。
このほか、双方の言い分が真っ向から食い違い、客観的な検証がないと話が進まない場面や、すでに出ている鑑定書・一審の判断に納得できず、控訴や再検討に向けて新たな鑑定を入れたいというご相談もあります。いずれも、相手方資料の「どこが、なぜ足りないのか」を科学的に指摘できるかどうかが勝負どころです。
では、どこを突くか ―私が見ている3つのポイント
体裁の整った鑑定書に対して、どこから切り込むのか。解析のときに必ず見ている点を、3つに絞ってお伝えします。
① そもそも、映像の補正がきちんとされているか。 ドラレコの映像は、そのまま眺めているだけでは正確な状況をつかめません。私どもの実務では、少なくとも**明るさ補正(暗い映像を見やすくする)・歪み補正(広角レンズの湾曲を直す)・傾き補正(水平でないカメラを直す)**の3つを欠かせないものと考えています。逆に言えば、これらの補正がされていない解析は正確性が担保されず、そこに反論の余地が生まれるわけです。相手方が「映像を見た印象」だけに寄りかかっているなら、その結論の信頼性そのものを問い直せます。
② 映像の「錯覚」に引きずられていないか。 映像は、見たままが事実とは限りません。たとえば並走するトラックが画面から下がって消えていくと「トラックが減速した」と感じますが、実際にはこちらが加速して追い抜いただけかもしれない。眺めているだけでは区別がつきませんが、1コマずつ解析すれば加速・減速の数値まで割り出せます。印象論は、事実で上書きできるのです。(速度の解析がどこまで過失割合に効いてくるかは、ドライブレコーダーから速度がわかる?過失割合を自分に有利へでも詳しく触れていますので、あわせてご覧ください。)
③ 解釈に主観が入っていないか、他の物証と突き合わせているか。 現状、工学鑑定の多くは警察作成の実況見分調書をもとになされますが、そこに書かれた情報――とくに見取図の中の情報――が必ずしも全部正確とは限りません。ですから、動画データだけでなく、双方の損傷写真、正確な縮尺の事故状況図、車両外観図などと組み合わせて総合的に判断する必要があります。相手方の資料が映像や調書だけに頼り、他の物証との整合性を見ていないなら、その一面性を突くのは有効です。
反論資料は、こうやって組み立てます
こうした着眼点を資料に落とし込む、中心的な手法が「フレームバイフレーム解析」です。解析者が手作業で、映像を1コマずつ、繰り返し確認していく手法で、各瞬間の車両の位置や動き、位置関係を、時間の経過と合わせて特定していきます。強みは、画質が悪くて不鮮明な映像でも、一瞬の出来事でも、高い精度で細部まで詰められること。相手方が「印象」で語るのに対し、こちらは「検証できるプロセス」で応じる――これが説得力を支えます。ちなみに同じ手法は、不自然なコマ落ちや画像の混入を毎回チェックしているため、データの改ざんチェックにも使えます。(解析の具体的な中身については、ドライブレコーダー解析のページもご参照ください。)
念のため、申し添えておきたいこと
ここまで「相手方の鑑定書に反論する」という話をしてまいりましたが、公平を期すために、逆の立場も申し添えておきます。
当然ながら、当社が作成した鑑定書・報告書に対して、相手方から反論をいただくこともございます。これはむしろ自然なことで、鑑定というのは一方が出したら終わりというものではなく、双方が根拠を持ち寄って検証し合うなかで、事実の核に近づいていくものだと考えています。
だからこそ私どもは、結論だけでなく、どういう手順で、何を根拠に、その結論に至ったのかという過程まで、できる限り詳しく記すようにしています。過程が示されていれば、第三者が後から検証できますし、仮に反論が来ても、客観的な手法に基づいている限り、根拠を示して再反論することができます。相手に反論するときも、反論を受ける側に回ったときも、拠って立つのは同じ――客観的で、検証可能な解析である、ということに尽きるかと思います。
いきなり鑑定書、ではありません ―報告書の使い分け
反論といっても、最初から本格的な鑑定書を作るとは限りません。目的や段階に応じて、ちょうどいい形の書類を選びます。
- 事前所見書:資料をもとに「そもそも狙った反論・鑑定ができそうか」「どういう結論が見込めそうか」を先に検討してご報告する書類。見込みを見極める最初の一歩です。
- 意見書:相手方の調査報告書や鑑定書そのものに対し、中身の妥当性を検証して意見を述べる書類。相手方資料への直接の反論には、これがいちばん合います。
- 鑑定書:裁判や公的手続きへの提出を想定した書類。通常、事前所見書などで一度ご報告したうえで作成します。
- 鑑定補充書:先に出した鑑定書の内容を、後から補う書類。
段階を踏むことで、無理なく、必要な範囲に絞って反論を組み立てられます。鑑定書そのものについては、交通事故の鑑定書とは?依頼の流れ、必要な資料、再現の手法を解説でも整理していますので、あわせてご覧ください。
費用・弁護士費用特約・依頼の流れ
費用はご依頼内容によりますが、参考までに、現場調査を含む映像解析でおおむね15〜35万円、工学鑑定は20万円〜(実績では20〜50万円ほど)が目安です。
ここでぜひ知っておいていただきたいのが、弁護士費用特約です。交渉や訴訟を進めるうえで必要な調査・解析であれば、保険金の範囲でまかなえる場合があります。実際、当社でお受けする依頼の8割ほどは、この特約でお支払いいただいています。着手前に概算のお見積りをお出ししますので、保険会社のご担当者と事前にご相談いただけます。
流れとしては、お問い合わせ→資料確認と概算見積り→調査・解析・書類作成→内容確認と打ち合わせ→納品という形です。納期は、資料が揃ってからご依頼〜提出までだいたい1〜2ヶ月、至急でも10日程度はいただいています。反論できるかどうかは映像や資料の状態にも左右されますので、まずは事案の概要をお聞かせいただければ、見込みと必要な資料をご案内します。
なぜ、東海DCが対応できるのか
当社の代表・阿部は、交通事故専門の調査会社で10,000件以上の事故案件に関わり、事故原因の分析や過失見解を担当してきました。日本弁護士連合会の研修叢書『交通事故事件 ―最先端の立証活動―』に関わったほか、弁護士の先生方を対象とした動画解析の講演も行い、2026年には画像解析分野の捜査協力について警視庁より感謝状を拝受しています。
作成した報告書は、一度こちらで作ったうえで、構成や分かりにくい点がないかを議論して練り直す運用にしていますので、外注で苦い思いをされたことのある先生からもご好評をいただいております。実際に寄せられたお客様の声もご参照いただければと思います。相手方の主張に埋もれてしまった事実を、客観的な資料として明確に、そして効果的に第三者へ伝える。そのお手伝いをいたします。
おわりに
相手方や保険会社が出してきた鑑定書・調査報告書は、どれだけ体裁が整っていても、その前提や手法にまで踏み込んでいけば、反論の糸口は見えてきます。映像補正は適切か、錯覚に引きずられていないか、解釈に主観が入っていないか――この3点を軸に、「印象」を「検証できる数値」に置き換えていくわけです。
そして、こちらが反論する側であっても、反論を受ける側であっても、拠って立つのは同じく「客観的で検証可能な解析」です。そこさえ揺るがなければ、資料は十分に力を持ちます。
「この鑑定書、本当に正しいのだろうか」――そう感じられたときが、ご相談のタイミングかと思います。まずはお問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。
